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AI 金庫の贈り物

~BAR ハニー エル・ドラード編~

作:神月 無弐

◆これまでのあらすじ◆
なんとか期限までにAI金庫の解錠条件をクリヤし、制覇者となった主人公。歴代の制覇者の末路を聞かされ唖然とする。さて、主人公を待ち受ける本当の結末とは・・・

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第4章 至悦 ①


「ちょっと待って、じゃ、人生をプラスに変えた解錠者はいないじゃないですか!!それに今さら代償って、何なんだ」
「そんなことはありません。お一人を除いては。唯一のプラスを勝ち得た制覇者様こそが そこにいらっしゃる女医のミカ様です。」
「えええ~っ!!」
(そんなー)ミカさんを見据える。
「じゃ、キミはポイントの基準も、撮り方もある程度わかっていたんだな(怒)なんで教えてくれなかったんだ。」
「私のヤり方ではあの子は見つからなかった。。。だからあなたのやり方に懸けたのよ。それもダメだったけど。でも、さっきの話でわかったわ。やっぱりあの子はあの医師の・・・犠牲者だった・・・」
「すみません。 ミカ様にお写真をご提供いただいた時、当然気づいておりました。罪を犯したのは医師とはいえ、AI-金庫の解錠が何らかの助長となったことは否めませんでしたので言えなかったのです。」
「死んでる?! じゃ、ユイは?
あの子は エル・ドラードでユイになる子なんだーーー!!」
「エル・ドラードは誰もの潜在意識の奥深くにあるものなのです。当店のカクテルが気付け薬の作用となってその潜在意識への脳内シナプスをつないでくれるだけです。あなたのご覧になったというユイさんは、ミカ様がご提供された写真と紐づけてあなたが作り出した理想の女性。あなたの中にしか存在しないのです。
制覇者である外科医のミカ様は、医療に携わり人の命を懸命にお救いになる傍ら、休憩時間を惜しんで赤ちゃんにおっぱいを授乳するやさしい母親、子供に自転車の乗り方を教える父親、屋上で風船バレーを楽しむ患者さんの笑顔、老人をいたわる介護士、入院患者のベッドの上で催された誕生会の情景、家族の死に泣きじゃくる子を抱きしめる看護師さんなど愛情あふれる写真ばかりでクリアされました。
姪っ子様のことはお気の毒でしたが、今では女性医師会の若き理事長としてTOPに抜擢され順風満帆でいらっしゃいます。」
一瞬、マスターの顔つきが変わったように見えた。
「一方、あなた様は、他人の不幸の写真ばかりではありませんか。そればかりかスキャニングした他人の写真や連写・動画でラクをしてポイントを稼ごうとしたり、AIの評価基準が人の不幸の大きさと勘違いなされました。地下鉄の駅の階段を踏みはずして大怪我をしてしまった女子高生。覚えていますよね。なぜ助けなかったのですか?後日、新聞の投稿欄で知ったのですが、あの子は受験で急いでいたのに怪我をして会場に行けませんでした。DVの父親から虐待を受けていたようで、全寮制の学校を受験しようとしたのは最悪な環境から脱する最後のチャンスだったそうです。『助けてください。贅沢は言いません。普通の生活ができる施設か養子を探している方を誰か紹介してください。』という内容でした。
少なくとも現場に居合わせたあなたが転びかけた時に救いの手を差し伸べていればあの子の人生は大きく開けたかもしれません。写真なら助けた後でもよろしかったのではないでしょうか。
あの写真のポイントが高かったのは、小さくではありましたが背景となった出入り口の空に左羽を怪我した子鳥をかばいながら羽ばたく親鳥の懸命な姿が偶然映っていたからです。他の写真もみなあなた様が気付かないうちに画角のどこかに同様な愛情あふれる事象が偶然重なって写され、高ポイントとなったのです。」
(知らなかった・・・)涙があふれてきた。止まらない。
「そもそも人間に作られた発展途上の AI が他人の不幸を喜ぶとは想像しにくい。普通、冷静に考えればそれくらいわかることです。あなた様はご自身で作り出したユイさんの呪縛にとらわれ、大きなポイントで効率よく貯めることに目がくらんで都合の良い解釈をしてしまったのです。」

そこまで聞いて
(あれ?おかしい)
酔いが回ってきたのだろうか、なんだかめまいのような感覚がある。
言葉がモヤモヤと聞こえ始める。
と、カードに変化が現れたっ!
そこにはエル・ドラードではなく真っ黒な背景の中に一筋の光が見えている。トンネルのようだ。入口?あそこに行かなきゃ。あそこに行けばきっとユイに会える。

☽☆☼
半年後、僕は病院にいた。
あの時のことは何も思い出せない。
ただ、あれ以来少しずつ 少しずつ 視界が狭くなって、医者の診断では『あと数ヶ月で完全に見えなくなってしまうだろう』とのことだ。ユイも、あの子も、ミカさんも、もう想像することしかできなくなる。僕が描いていたエル・ドラードは闇の中の幻想でしかなかった。


月日は止まることなく流れ続けます。店内にはフォーレの「レクイエム」が静かに流れていた。客は一人。ミカさんがいつもの席に座って マティーニの中のチェリーをころがしている。
この日は、奇しくも姪っ子さんのご遺体が発見されたのと、あの方が運命を変えてしまわれた同じ日。ミカさんは白と青の薔薇を2本だけ手向けに、年に1度だけこの店を訪れるようになった。花言葉は「純潔の少女時代」と「神の祝福」だ。
「もう3年になりますか。他人を犠牲にして人の不幸を見守り続けることで制覇者となられたあの方は、視神経に障害が起こって視野が狭くなる緑内障を患われました。まるで人の不幸が見えないように自ら自分の目を閉ざしてしまわれるかのように。
一見、代償と思える出来事がエル・ドラードからの啓示だったのか偶然なのか私にはわかりません。自分の犯してしまった罪や過ちを自身で懺悔する先にこそエル・ドラードは訪れるのかもしれません。」

5.1chのスピーカーからショパンの「別れの曲」が流れ出す。
「ところで ミカ様のエル・ドラードは見つかったのでしょうか」
「そうね、私の理想はあの子のような弱い人間が苦しまないでいられる病気に負けない世界。そこではみんな仲良く笑って暮らしているの。でもそんなの絵空事に過ぎなかったわ。病気に勝つには人間そのものを強く進化させること。
エル・ドラードにはラボがあった。様々な人種の男女を無理やり同系交配、異系交配、異種交配、近親交配させてDNA(遺伝子)の変異や進化を見るの。中には獣に女を襲わせてキメラ化された人間を生ませたり。。。ヒドイものよ。そこには愛のかけらなんてものもあるわけもなく、人間をモルモットにした実験の繰り返し。ラボの裏には用済みの実験体として捨てられた死体の山があったわ。まるでゴミのように扱われてね。
結局、最後に残されたのはAIに作られたサイボーグだった。サイボーグは何も目的を持たず働く必要もないから、ただただ動かず並んで立っているだけの静寂の世界。これが私の潜在意識の中にあるエル・ドラード(理想郷の答え)だった。
笑えるでしょ。所詮人間は死ぬために生きているのよ。頭では勝つことができたとしても肉体的にはAIロボットには勝てない。これまでどんなに頑張っても病院で救えなかった人が大勢いたわ。そう、見殺しにしたのと同じ。きっとそのツケが回ってきたのね。AI は騙せても神様は騙せなかったみたい。」

・・・因果応報。他人の 不幸 は 蜜の味。
BAR ハニー エル・ドラードのハニーは幸福の蜜だったのでしょうか?それとも不幸の蜜だったのでしょうか?BAR ハニー エル・ドラードは今夜もどこかの街の路地裏でAI-金庫を相棒にひっそりと営業を続けているようです。
あなただけのエル・ドラードの入り口は意外と近いところにあるのかもしれません。

 

― 完 ―

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