AI 金庫の贈り物
~BAR ハニー エル・ドラード編~
作:神月 無弐
◆これまでのあらすじ◆
AI金庫を解錠すべくひたすら写真撮影に没頭する主人公。解錠条件の期限が迫ってきたある日、突然現れた謎の女は味方だった。二人は思いを共有し合うように一線を越えたが・・・
▷【書き下ろしⅠ】移動中・待ち合せの時間潰しに読める小説(連載①/8)
▷【書き下ろしⅠ】移動中・待ち合せの時間潰しに読める小説(連載②/8)
▷【書き下ろしⅠ】移動中・待ち合せの時間潰しに読める小説(連載③/8)
▷【書き下ろしⅠ】移動中・待ち合せの時間潰しに読める小説(連載④/8)
【第3章 充悦 ①】
☆前日
カーテンの隙間から差し込む一筋の光に顔を照らされて目覚めた。ミカさんは横でまだ寝息を立てている。長い黒髪を乱したまま気だるさを残して気持ちよさそうに眠る横顔に昨晩気が付かなかった大人の女性を感じてハッとした。起こさないように一人ベッドを抜け出して珈琲メーカーのスイッチを入れ、飲み残しの入っているガラスポットを温める。それにしても神経が高ぶっている。ミカさんのこともさることながら本当にもう時間がない。気分転換を兼ねて外に出て朝の空気を深呼吸する。軽く体を動かしてついでに近所のコンビニでサンドウィッチとサラダ、粉スープを二人分買って部屋に戻った時にはミカさんは起きて身支度を整えていた。ナチュラルさを残してメリハリのあるメイクを施したミカさんは十数分前とは違った色気を放っている。(メイクで女性はこんなにも変われるのか)と今さらながら驚かされる。
「おはようございます」
「おっはよう」
「何にもないんで朝食になるもの買ってきました」
「あら、やさしいのね」
「あ、あの、その、昨日はどうも・・・」
「その話はやめましょう。せっかくの余韻が覚めちゃうから」
「でも・・・そんなつもりじゃなかったんです。本当にごめんなさい」
「謝られたら、私が被害者みたいじゃない。楽しかったわ。むしろお礼を言わなきゃならないのは私かもしれない。」
「そ、そんな、ありがとうございました。ん?・・・お世話になりました?ん?」
「それは娼婦に言うセリフでしょ」
といってミカさんは笑い出した。
「そんなつもりじゃ。 あっ」
さっきの繰り返しになりそうなことに気づいて僕も照れ笑いした。
「それにしてもキミ、結構スゴイのね。一人でするなんてもったいないわよ(笑)」
意味深なウインク。
「もう、からかわないでくださいよお」
二人は顔を見合わせて声をそろえて大笑いした。
それからミカさんは買ってきたサラダを2枚の皿に取り分け、空っぽに近い冷蔵庫から玉子を見つけて手際よく目玉焼きを作って乗せてくれた。粉末のインスタントスープにお湯を注いで出来合いのサンドウィッチをほおばって久しぶりに部屋で女性と2人きりで朝食をとった。充たされている。温めなおした珈琲が食後の体に沁みていくようだった。
あと 841pt。
僕は会社を休んで撮影に没頭することにした。高ポイントを狙って被写体を待つより1ptでいいから枚数を稼いだ方がよさそうだ。(こうなったら)
「ねえ、ミカさんモデルになってよ」
言ってからハッとした。昨日会ったばかり、成り行きで一夜を共に過ごしただけなのにすっかりカノ女扱いの物言いだ。それでもミカさんはこうなる事がわかっていたかのように黙って協力してくれた。
「では撮ります。じゃ笑ってください。」
「なあに、それ。記念写真じゃないんだから。音楽でもかけてリラックスさせてよ。私だって恥ずかしんだから」
「ごめんなさい。気が利かなくて。なんだか緊張しちゃって」
「おや、最初に言っておくけど裸は撮らせないから」
健全な青年男子とは厄介なものだ。ミカさんの口から「裸」という言葉を聞いて想像してしまう。昨夜の余韻も手伝ってこんな時でも欲望の本能がもたげそうになる。
「あ、はい。わかってます。」
下心を見透かされてそそくさと携帯のアプリを操作して僕は大好きなBon Joviのベスト盤をBluetoothスピーカーから流した。
カシャー、カシャー。
メロディアスなハードロックをバックに待ってましたと言わんばかりに一眼レフデジカメが再びシャッター音を響かせる。
「いいです。すっごくいい!今度はターンしてもらえますか」
全身立ちポーズに座りポーズ、うつ伏せ・・・縦横にと画角を変えて夢中になってシャッターを押した。
ミカさんはあの少女の叔母というだけあって何とも言えない妖艶な振る舞いを持った人だった。僕は俄然ヤル気がわいてきてカメラマン気取りでポーズをつけ続けた。
「本物のモデルさんみたいだ。きれいだよ」
バストアップにアングルを変えて自分好みの表情、しぐさを記録するように切り取る。ミカさんもいつしかその気になって自分からうるんだ瞳で流し目を送ってくる。ホント色っぽい。(僕の彼女なら最高なのに)
何枚撮ったのだろう。時刻は14時になろうとしていた。
「そろそろランチにしない?気分を変えて外に行きましょうよ」
ミカさんの声で覗き込んでいたカメラのファインダーから目を離した。
「もうこんな時間か」
時間が経つのが早い。この時間を手放すのはもったいない気がして後ろ髪をひかれる気分だったけど、ミカさんおススメのイタリアンの店があるというので青山に向かった。青山からなら表参道、原宿、渋谷とどこに足を延ばしても被写体に困ることはなさそうだし問題ない。
もちろん移動中も逃すことなく何枚も撮影した。ベビーカーを押しながら公園へ猛ダッシュで駆け込んで行くママ、大学生カップルのクチげんか、回し忘れたスカートのスリットがチャイナドレスのように横にあるのに気づいていない女性の後ろ姿、上司と部下と思われるサラリーマンの小競り合い、手をつなぎながらソフトクリームを舐め合う意味ありげな女子高生、落とした小銭を拾う新聞の集金人、万引きでもしたのだろうか交番で警察官に頭を下げ続けるご老人、片手離しで自転車に乗りながらゲームに夢中の高校生、ノートのページを破って丸めて野良ネコに投げつける子供たち、などなど。
ミカさんに案内されるままに着いたのは真っ白なヨーロピアン モダンのテラス付きカフェ風の店だった。圧倒的な白の清潔感にガーデニングの緑が映えて、リゾートチックな雰囲気を醸し出している 。 ホール係に案内されたのは2階のバルコニー席だった。店内はシックに落ち着いていてテーブル席の間隔が贅沢に広い。この時間の客層はセレブな奥様方だ。お受験や海外の著名人がどうとかそんな会話が聞こえた。
おやつタイム時の陽射しはポカポカと暖かく疲れをやさしく癒してくれるようだった。
「世の中、意外と幸せな人が少ないのかもね。」
料理が出てくるのを待つ間、デジカメで撮った写真をチェックしているとミカさんはつぶやいた。
確かに撮ったのはマヌケでぶざまなシーンが多い。
「あゝ、気がついちゃいました?前に偶然事故に出くわしてその時の写真をアプリに送ったらptが高かったんで、それから出来るだけハプニングを狙うようにしているんです。」
「ふーん、人の不幸は蜜の味ってことね。AI-金庫もずいぶんと悪趣味ね。」
それにしても体質的にそういう場面を呼び寄せてしまうのか、潜在的に反応してしまうのか、あれからというものその手の場面に出くわす事が多くなった気がする。
つづく
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