営業アラカルト

【心に残る営業秘話】そこまでする!?誠意は形だけではない、タフであれ

「突然で申し訳ありません。至急お話ししたいことがありまして・・・」

受付電話の受話器の向こうからいつもとは明らかに違う中堅広告代理店の部長の声。

何かあったな

と思うのは自然の成り行きだ。

当時クライアントとして広告部で課長をしていた私は頭を巡らすが、詫びに来なければならないような直近のミスもなく人事異動の季節でもない。
考えられるのは2つ。
出稿媒体を間違えた、あるいは予定の広告掲載が飛んだといった大きなトラブルか、CM起用タレントの不祥事だ。

ここは毅然とした対応が必要だろう。
私は、この広告代理店に仲介してもらっている媒体やメディア会社の状況を確認し、ネットニュースにさっと目を通したあと、あえて部下には立ち会わせず一人で会うことにした。

この会社は、広告出稿を始めた当初からの付き合いがあり、まだ実績や信頼のない当社のために 媒体社に前金で立替えて媒体を押さえてくれたほどの親密なパートナーだ。
部長は事あるごとに足しげく来社され、様々なことにかなりの議論を重ねた。人間関係としてもかなりの信頼が構築できている。

厳しい話にはなってもそこは武士の情け。クライアントだって鬼じゃない。
特に平和主義の私にとって叱咤するというのはかなりの労力を要するのであまり好きではない。
当時 取引きのあった営業さん達には伝わっていなかったかもしれないが(笑)

 

10分後の応接室。

ソファーにも座らず直立不動で頭を深々と下げた男が一人で立っている。知っている部長にしてはいつもと風貌が違う、別人?!

「すみません」

「えっ、えっ~~~!!部長?! どうしたの?☆*△@」

そこには頭を丸めた、いや完全に剃ったスキンヘッド、ツルピカ頭の部長がいた。

「すみません、本当に申し訳ございません。」

今にも土下座しそうな勢いだ。
かなり前に団体女子アイドルグループのメンバーが突然剃髪して驚かされたり、ドラマで銀行の常務が土下座をして話題になったが、それくらいのインパクトはあったと思う。

「まあまあ、話してくれなきゃわからないでしょう、ゆっくり聴くから」

言いづらそうに重いクチを開く部長。

「・・・・会社が・・・飛びました。ご迷惑をおかけします。追って、役員も参ります。」

「はぁ~~~!?!・・・・」

本日2度目のビックリだ。

言葉を失うとは こういうことを言うのだろうか。
それから小一時間かけて概略を聞いた。

内輪の話なので詳しくはお伝えできないが、現場を無視した上層部の暴走の果て事業拡大のビジョンを見誤った結果のツケということだった。

それから、しばらくの間、私は予定した今後の広告展開の付替え調整や新たなパートナー会社の発掘、年間前金で支払っていた広告費の回収などに追われた。
人生でそうそうないであろう破産管財人との交渉などなど、今までしたことのない経験ができたのは私にとってはプラスとなったのだが。

「顔向けできません、誠に申し訳ございません」

これを最後の言葉にこの部長とは2度と会う機会がなかった。

 

頭を丸めての謝罪。
営業は会社のためにそこまでやらなければならないのか?
これが律儀なのか?過剰パフォーマンスなのか? 私にはよくわからない。

本来、「出家した気になって猛省する」という意味合いで頭を丸めるというようだが、形だけなら何の意味もない。逆に対応に困ってしまう。
会社がなくなってしまうのは残念なことだ。確かに迷惑のかかることでもある。だがそれは会社全体の責任であって、営業一個人が代表する問題ではない。

悪事でも働かない限り営業個人が矢面に立つ必要もなく、ましてや辱められるものではないと私は思う。

形よりもあなたの誠実な行動こそがすべてなのだから。

蛇足になるが
実はこの広告代理店は以前ご紹介した役員の在籍なさる会社だ。
【心に残る営業秘話】縁故入社に負けるな、会社はキミの営業力で動く!

役員は従業員の行き先を手当てして、 全員 の進路を見届けてから身を引いた。
最後まで「人」を軸にした仕事道を魅せてくれた、私にとっての恩人だ。
今では年賀状のやり取りぐらいになってしまい大変恐縮なのだが、頭が下がる思いで尊敬している。

良いことも悪いことも、クライアントと接することから逃れられない営業はタフでなくてはならない。

営業諸君!
自分の行いに「悪」がないのなら、どんな時でも自信を持って胸を張っていて欲しい。
強くなれ!

健闘をお祈りする。

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