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【書き下ろしⅠ】移動中・待ち合せの時間潰しに読める小説(連載①/8)

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AI 金庫の贈り物

~BAR ハニー エル・ドラード編~

作:神月 無弐

第1章 酔悦 ①】


BAR ハニー エル・ドラード


前からずっと気になっている店だ。ビッグターミナルを2つやり過ごした郊外にあるこの店は、ちょっと前に取材拒否の店としてネットの掲示板で話題になっていた店だ。元プロカメラマンのマスターが趣味で始めたBARで、店名と同じ名前のカクテルが話題を呼んだ。
なんでも エル・ドラード(=黄金の理想郷)はマスターがライフワークとして世界各地を飛び回って追い続けた写真のテーマで、写真と一緒に現地で集めた貴重なハニー(はち蜜)を材料に加えて振舞っているそうだ。
その日の気分でマスターにすすめられた写真を見ながら このカクテルを飲むと、人それぞれの鮮明な理想郷のイメージが頭の中に浮かぶと評判になった。
人は飽きるのが早い。ミハーが苦手な僕にはブームが去って噂にもならなくなった今の方が都合がいいのだが。

僕は、毎日変わり映えのしない生活を送っている平凡な営業サラリーマン人生を送っている。
誕生日の今日でさえ祝ってくれるはずの彼女とは3日前に別れた。突然だった。まだ吹っ切れてはいない。最近、何をやってもツいていない気がする。(流れを変えなきゃ)
そんな憂さ晴らし半分、気まぐれ半分で、今夜 初めてここに来た。

【 エル・ドラード 】 かつての探検家たちが ある と信じていた黄金の理想郷。
僕の理想郷とはどんなところだろう?僕には はっきりとしたイメージがない。もし、エル・ドラードが見えたら何か目標でも見つけることができるのだろうか。見てみたい。

最寄り駅から徒歩10分ぐらいだろうか。
裏道を何度か右折すると、ひっそりとした路地裏に西洋風の外観が現れる。
特に看板らしきものもなく、入り口を隠すようにツタが絡まっていて1枚板の木材を贅沢にあしらったドアには「Honey El Dorado」と筆記体でシンプルに書かれていた。
店構えは歴史を感じさせる落ち着きがある。(もっと仰々しい店かと思っていたが、安心した)
ここまで来たなら迷ってもしょうがない。僕は思い切ってドアを押した。
カランコロン♪ コロン♪ カウベルのやさしい音が響いた。
「いらっしゃいませ。」
カウンターの中でカクテルグラスをふきながらマスターが笑顔で出迎える。
店内はカウンターメインのほど良い広さで、王道のBARらしくシックな木調で統一されている。違和感があるとすれば不釣り合いともとれる高そうな5.1chサラウンド・スピーカーシステムから重厚なクラシックが流れていて、古今の融和を思わせることぐらいだ。
壁のところどころにはマスターのコレクションと思われるモノクロームの写真がパネル張りされて、一つ一つ丁寧に間接照明でライトアップされていた。
客はL字型のカウンターの一番奥におなじ年頃だろうか、30代前半と思われる女性がひとり。マスターを見つめながら訳ありげに飲んでいる。きっとマスターの恋人か何かだろう。
「ここ、いいですか」
「どうぞ、お好きなところに」
入り口から2番目に近いカウンター席に僕は座った。
「初めてでいらっしゃいますね。」
「ええ。いい雰囲気ですね。来た甲斐がありました。」
「それは ありがとうございます。ごひいきに。何になさいますか?」
40・50代だろうか、見た目は30代にも見える精悍な顔つきのマスターが執事のように丁寧に応対してくれる。
「はい、ハニー エル・ドラード をお願いします。」
僕はミーハーではない、この店で一押しのメニューを確かめたかっただけだと自分に言い聞かせるように悟られまいと平静をよそおうのが精いっぱいだった。
「かしこまりました。」
マスターはそんな心の内を見抜いてか薄っすらと笑みを浮かべて無言のままカウンターの背面に並べられているガラス瓶に入った数種類のハチミツの中から一つをチョイスして、テキーラをベースにレモンジュース と3:2の割合でシェーカーに入れ、慣れた手つきで縦横に素早くシェイクした。

シャッ、シャッ、シャカシャカ、シャッ♪
数秒間 心地よい小刻みなリズムを奏でる。そのあと白い長い指でロックグラスに氷をころがすとシェーカーから黄金色の液体を注ぎ、1/16に切ったオレンジをグラスのふちに飾った。
「どうぞ」
気になっていたカクテルが今、目の前にある。
ハニー エル・ドラード
(なるほど、ハチミツが甘美な黄金色を作るポイントなんだな。黄金郷に見立ててる割には意外にシンプルだ。)
「いただきます」
一口含んでみる。すっきり爽やかなテイストだ。レモンの爽やかな酸味が鼻に抜け、なんとも言えないハチミツのほどよい自然の甘さがテキーラのとんがったアルコールを包んでくれる。クセになる味だ。
「どうですか?」
「飲みやすくて美味しいです。気に入りました!」
「それはよかった。アテ(肴)替りといっては何ですが、こちらをご覧ください。当店自慢の逸品 “ 理想郷 ” でございます。ごゆっくり。」
マスターは二つ折りの黒いカードをカクテルグラスの脇にそっと滑らせておくと、今度はにっこり微笑んで会釈した。
そしてまた、定位置まで戻るとカウンターに伏せてあったグラスをゆっくりと拭き始める。

曲が変わった。バッハの「G線上のアリア」が静かに流れだし、重厚な音に全身を包まれる。こちらから問いかけるまで決して多くを語らないマスター。(なんて居心地がいいんだろう)
2口目をのどに流し込み、一呼吸おいて黒い表紙の二つ折りカードを開いてみる。そこには少女が一人寂しそうに膝を抱えているモノクロ写真が貼り付けられていた。(これが黄金の理想郷?)よく見ると少女は微笑んでいるようにも見える。写真の少女と目が合た。と、突然、イメージが見えた。
「わたし寂しくないよ。だってあなたがいてくれるから。一緒に行きましょう、二人だけの理想郷へ。」

いつの間にか少女と手をつないで歩き出していた。なんて気持ちいいんだろう。果てしない奇麗な草原、澄んだ小川、小鳥たちがさえずる森を抜け、色とりどりに咲き誇る花畑を通って虹のアーチをくぐると目がくらむような黄金色の光が1ヶ所に集まって球体になったり、一気に散乱したかと思うとホタルのように思い思いに飛翔して幻想的な空間を演出した。ここが、エル・ドラード!黄金の理想郷?!
もう一歩踏み出した時、僕たちは唐突に何かに跳ね返されてしまった。どうしたんだ。もう一度、慎重に踏み出してみる。目には見えないが、透明なオーラで囲まれた壁のようなものを確かに感じる。
「ここには黄金を守るための結界が張られているの。入口はここだけよ」
少女にさらに手をひかれて立ち止まった先には、鋼鉄の大きな観音扉に頑強な太いチェーンが幾重にもかけられ古代の装飾が施された大型の南京錠がガッチリとかけられていた。
「いつもここまでなの。この中に入れたら・・・」
少女はそういうと見えない壁に手を触れた。
えっ!?
少女が手を触れると子供からオトナになった美女が見えた。長い黒髪に黒目の大きな二重まぶたが特徴的で嫌でも人を惹きつける。ほどよく膨らんだバストからヒップへのラインは見事なほどのS字だが抱きしめると壊れてしまいそうな華奢な体だ。顔には見覚えがあるような、どこかで会ったような…。頭をフル回転させる。
「自信をもって。あなたはクズなんかじゃない」
思い出した! おもかげがある。
子供の頃、引っ込み思案でいじめられていた僕に希望をくれた人。ずっと女神のように思っていたのに感謝の言葉も伝えられないまま疎遠になってしまっていた。
「ユイ(唯)」
この人こそ僕の運命の人。ずっと思い描いていた理想の恋人だったんだ。やっと会えた。元カノへの未練など、いっぺんに吹き飛んだ。理想のその子、ユイを僕は無条件で好きになってしまった。
「あそこに行けばわたしはオトナになれる。そしたらいっぱい愛しあえるのに」
その通りだ。
子供のこの子とではKissもおろか恋愛さえもできない。カギを探さなきゃ。ずっと一緒にいたいんだ。
「カギはどこにある?」
「あそこだよ!」
少女が指さす方を振り返ると!!
イメージはすっかり消えてなくなってしまった。

 

つづく

 

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