組織人である以上、人間関係での悩みはツキものではないだろうか。
特に上下の関係では一筋縄には腹に据えかねることも多い。
どんなに頑張っても評価者が公平に正しい評価をしなければ、努力の甲斐もなく、はりあいを失ってしまう。
人間には感情があり、残念なことに外面・内面・生理的を問わず好き嫌いが生じてしまうのが現実だ。だからといって異動願いを出して認められでもしない限り上司は選べないし、逆に自身で居づらい環境をつくってしまうことになりかねない。
もう何年も前のことになるが、私が通信販売の会社で広告宣伝部の課長を務めていた時のことだ。
主力商品である女性向けの健康食品が消費者に爆発的な支持を得て伸び盛りの時期にあった同社は、事業拡大に伴い外部から大勢の新たな管理職が採用され、私の部署にも直属の上司として2人配属された。
過去の経歴はどうあれ、正直、私はこの上司達をどうしても快く思うことができなかった。
それは
畠違いの業界からやってきた一人は、いかにもバブル期が止まったままのような生活態度の方で仕事よりも夜のお付き合い、女子社員をかまってはお気に入りの子をあからさまにえこひいき、取材と称しての出張旅行に、その場の流れに合わせてその場しのぎのいい加減発言を繰り返す。その後始末をさせられるのは決まって私たち部下の役目となった。
(何度も続くとたまったものではない)
もう一人は、これまでの社風やルールを壊すことで自分の存在感を示そうとするタイプ。これまで積み上げてきたお客様との信頼関係を壊さないために禁じ手としてきた販促手法などを、独断で
展開し、そのプラス成果だけを社長にだけ一早く報告。また、今だから話せることだが、自分の子供のために広告代理店を呼びつけては発売前のアニメキャラクターグッズなどの提供を強要したり、外出といってはゴルフ三昧で部下に口裏合わせを強要する始末。
(まったくいい御身分だ)
この二人の共通点といえば
私利私欲の強要 と クチ達者 な点だ。
いわゆる処世術に長けているタイプだった。話術に関しては驚かされることもしばしばで「クチから生まれてきたような」とはまさにこういうことなのだろうという代表のような饒舌だった。営業担当、あるいは出世を望む者にとっては見習わなければならない点もあるのかもしれないが、それでも私利私欲のために仕事やお客様を食い物にするようなスタイルは私には許しがたいものだった。
東京支社(*現在は本社)の立ち上げ当時から創業社長とともに「お客様のためにどうすべきか」を最重要用課題として常に考え、お客様に喜んでいただくことで利益は必ず後からついてくるものと信じ仕事をしてきたからだ。
当社がここまで成長できたのもその理念と社員みんなの努力のたまものと自負している。
ある時、広告代理店の営業担当から内密にという形で両部長からの過度な強要に困っていることを相談された。
また、その場しのぎの振り回しに部下も仕事に集中できないばかりか、失敗の責任を担当した部下に押しつけるという腹立たしい状況を私は見て見ぬふりをできなくなった。
相手は自分よりも上席の人間だ。組織人としては反旗を翻すのはご法度なのはわかっている。
それでも、断腸の思いで直接本人に進言(忠告)した。
その結果・・・私は大事な会議には召集されることがなくなった。課長でありながら決議に参加することもできず知らないうちに決定された内容に従わざるを得ず、部下は直接コントロールされ自分は居場所を失う羽目になった。
情けないことに部下さえも守ってやることができなくなった私は、自分の無力さを思い知らされ未熟さを恥じた。唯一、正義感を曲げなかったことだけが誇りだった。テレビドラマならばこれでヒーローになれるのだろうが、現実は違う。
今の世ならばパワハラ・モラハラともいうべき圧力に精神的にも苦しい日が続いた。
そして限界を迎えた私は、辞職覚悟で創業社長に相談にいくことにした。
そこでの社長の言葉が、私に消えかけていた情熱を取り戻させてくれた。
心のつかえがスッと腹落ちして涙が出るほど感激して救われる思いがした。以来、苦しい時、ツラい時はこの言葉を思い出すようにしている。
その言葉をご紹介しよう。
「ハク(*アカウント名でご容赦ください)よ。会社のことでツライ思いをさせてすまない。組織である以上、私一人の独断でどうすることもできないこともある。すまないがもう少し耐えてもらいたい。
これから本音で話すから、よく聞いて欲しい。
責任者クラスの新しい人間については、私も社長として彼らの力量を見図っている期間でもある。上に行きたい奴はみんな、まずは実績を上げるために必死になって貪欲に自己アピールをするものだ。自分に注目が集まるように自らを輝かそうとするから一見華があるようにも見える。そういう視点から見れば ギンギラの「銀」 だな。
ハクは違うタイプの人間だと思ってる。言うなれば 「いぶし銀」 だ。普段はみんなを立ててその実力を表立っては出さないが、いざっという時には頼りになる。そういう普通では得難いハクの雰囲気や信頼感に人はついてくるし、私はかっている。
ギンギラの銀は、なりたい奴ばかりでいくらでも替えが利くが、いぶし銀は持って生まれた気質みたいなものだから替えはない。
表と裏、外部に対して見える部分と見えない部分の役割が両立してこそ会社は上手く回っていく。組織にはどちらも必要な存在なんだ。だから、もうしばらくは今のポジションからしっかりと会社を支えて欲しい。いつでも私が相談にのる。
悪事は別だ。その点はきちんと事実関係を確認とって処罰も検討する。」
それから1年もしないうちに直属の上司2名のうち一人は他部署への異動、もう一人は子会社へ左遷された。
社長とさしで話せたことは今でも鮮明に覚えている。
もしかしたら、この時の社長の言葉は悩んでる社員を元気づけるためのリップサービスだったのかもしれない。けれど私は確実に上向くことができたし、自分がどんな風に評価され組織についてどうお考えなのかが明確に伝わった。
そして、社長はちゃんと見てくれていた。「いぶし銀」という評価が何よりも嬉しかった。
「いぶし銀」
以後の私のビジネススタイルを決定付けた言葉といっても過言ではないかもしれません。この言葉が胸に深く刺さってどうしようもなくなった時に勇気づけてくれます。
そう思うと今回の件を経て、言葉に宿っている不思議な力とでもいうものを実感することができました。言霊(ことだま)というそうですが「言葉には、繰り返し発していると発した通りの結果に導く力がある」と信じられているようです。これが有言実行につながるのかもしれません。
営業諸君!
営業の真髄は「どれだけ相手のことを思い懐に飛び込めるか」同時に思いを伝えるコミュニケーション能力が重要だとこれまで何度もお伝えしてきました。
それは社内においても同じです。
「銀」と「いぶし銀」のコミュニケーション・スタイルの違は一例ですが、どちらの生き方を選んでも信念さえもっていれば引け目を感じることはありません。あなたのことを評価してくれる人が必ず誰かいます。
あなたが大切にしている言葉はありますか?
言霊を信じて、信念を貫くことも成長の一助かもしれませんね。
健闘をお祈りする