営業アラカルト

【心に残る営業秘話】悲哀「ブルータス、お前もか!?」の境地も やがて晴れ

「ウチにも広告を扱わせてくれませんか」

日本最高ランクの一角を担う大手広告代理店からの電話だ。

私がクライアントとして広告部で媒体担当の責任者をしていた時代の話だ。

古くから取引があり、多くの雑誌広告の出稿仲介をお任せしていた広告代理店が突然倒産した。

(ご興味がある方は前回ご紹介したこちらをご覧ください⇒【心に残る営業秘話】そこまでする!?誠意は形だけではない、タフであれ

 

原因はお決まりのような上層部の密室政治による事業拡大の投資を見誤ったことらしい。

お家のことは外からではわからないものだ。前兆はなかった、いや気付かなかったというべきか。あんなに情報交換していたのに今となっては夢のあとだ。

あした何が起こるかわからないのがビジネスだ。

クライアントの皆さんは常に情報交換を心がけ、たまには先方へ出向いて商談とともに社内の雰囲気などを感じ取ってくることも大切かもしれない。

 

 

話を戻そう。

破産管財人との調整に追われていた私。

内線に出ると

「ハクさん(*アカウント名でお許しください)、また営業電話です。お願いします。」

 

またか。

これで何件目だろう。

当時、女性雑誌20誌以上にレギュラーで広告を出稿していた当社の「取引先が一つなくなった」との業界情報を入手して、飛んだ代理店の扱い分を狙っているのだろう。おこぼれを狙うハイエナのように。

冷静に思えば「チャンスを逃さない!」という前向きな王道の営業活動かもしれない。

反面、当事者にとっては心穏やかばかりではいられない。

人の不幸を喜ぶような不謹慎な行動ともとれる。

長年つきあいがあったパートナーを失くしたのだからビジネスライクにドライに割り切ることは、その時点の私にはできなかった。

 

 

受話器を取ると

・広告代理店名(ビッグネーム)

・近況うかがい

・自社の扱い媒体の紹介

・アポイントの調整依頼

などを流暢によく話した。その話しぶりから新人ではないことは容易に想像がついた。

 

どこの会社も言わんとすることは同じだ。

「ウチにも広告を扱わせてくれませんか」

・・・。

「御社のような大きな会社さんでも、ウチのような小さな企業の隙間のためにテレアポなさるんですね。」

 

精一杯のイヤミだった。

1日、何十件も同じようなことを聞かされてウンザリしていたから。

私とお話しさせていただいた営業のみなさんその節は大変失礼した。お詫びします。

 

それからしばらくの間、電話営業の対応は一切を部下に任せて私は様々な手続き整理と調整に専念することにした。

その時の指示は私の経験と信念に元ずく下記のルールのみ。

 

ルール:1)

営業電話は3回待て

 

ルール: 2)

同社同人3回目の電話で対応のジャッジをせよ

 

ルール: 3)

3回目の電話で見込みがないと感じた時は きっぱりと断る

 

ルール:1の「営業電話は3回待て」は、ヤル気のある会社またはテレアポを外注している会社以外は一度断られたら何度も電話してくる事は少ない。よって相手の熱意や温度感を測るために、同じ会社の同じ担当者が3回かけてくるまではどんな提案も受けない。

 

ルール: 2の「3回目の電話で対応のジャッジをせよ」は、3回目の電話を受けて何か感じるものがあった時は面会の調整をして、対面で詳細を商談してみる。

 

ルール: 3の「3回目の電話で見込みがないと感じれば きっぱりと断る」は、何も感じるところがなかった「見込みなしと」判断した3回目の営業電話には「これ以上は一切迷惑だ」ときっぱりお断りする。

 

というものだ。

几帳面な部下は、自ら管理メモを作って「正」の字を記録しながらルール通りに動いてくれた。

この管理メモを共有することで、たとえ私が手の空いてるときに受けたとしてもすべての会社に同じ条件で対応できる。

実はこれ、東京支社(※今や本社)の立ち上げ当初、社長と悔しい思いを分かち合った時に私が学習し決めたルールだ。

(ご興味のある方はこちら⇒【心に残る営業秘話】クライアントにも意地あり!足元を見過ぎると結局損をする

「はい、お電話替わりました。ハクといいます。3回目のお電話ですね。ちょっとしつこくないですか(笑)」

意地悪と思いつつも、ちょいワルに徹して軽くジャブ。

冒頭でご紹介した広告代理店の3回目の電話が、他部署の担当から たまたま私に内線されてきたのだった。

「ええ、お世話になります。何度もお電話しているんですがなかなか繋いでいただけず。あきらめなくてよかったです。ハクさんとお話しできるの2回目ですよね」

敵もさる者。

さすがルール:1をクリアしただけのことはある。情熱家タイプだ。

「前の電話でおっしゃられたこと、耳が痛かったです。こんな時期に 本当にすみません。あらためてお詫びいたします。ですが、そんなつもりじゃなかったことをどうしてもお伝えしたくて、ハクさんに繋いでいただけるまで何度も電話させていただくつもりでした。」

どんな人物だろうか?

やっと繋がった待望の瞬間。このシチュエーションなら普通はここぞとばかりにもう一押しの提案をガンガンしてくるものだが。。。

スマートで律儀。腰が低い好青年を連想させる。

なんとなく興味がわいた。

「こちらこそ、大柄な態度でものを言ってしまい、申し訳ございませんでした。大人げなかった。他社さんからの電話攻撃に参ってまして、正直疲れました(笑)」

本音を漏らしてみる。

「お察しします。頑張ってください。何かお手伝いできるといいんですが こればっかりは。」

この真摯な態度に私は心を動かされた。

仕事はともかく、どうしても会ってみたくなった。

この後

・先方の活動内容と状況

・業界の話

などを30分近く話して対面商談の約束をした。

 

当日

ニコニコとした役者のようなハンサムな彼は一人でやってきた。

日本トップクラスの広告代理店の営業マンがたった一人?

・・・それはそれでなんだかいつものパターンと勝手が違う。

最初から冷やかしだったのか?

もしや新人さん?

疑念を頭に巡らせながら応接室へ。

「はじめまして。やっとお会いできましたね」

「この度はお会いできる機会をいただきありがとうございました。お話の前にきちんとお詫びさせてください。大変な時にお電話では大変失礼いたしました。」

「もうもう、そんなに気にしないでください。なんて奴だって思ったんじゃないですか(笑)お恥ずかしい。どうぞお座りください」

名刺交換をしながら初対面で共に笑った。

この時の彼の話で強烈に覚えていることがある。

彼は目を輝かせて当社の「企業理念」について1時間近く熱く語ったことだ。

これには参った。

これまで相当数の営業担当にお会いしたが、この展開は初めてだ。

社内でもここまで自分なりの解釈をもって業務に臨んでいる人間はいないだろう。

来社にあたって相当前から当社のホームページを見て入念な準備したものと思われ、感心を超えて感動した。

私は愛社精神の希薄さを痛感し、苦笑いするしかなかったのを覚えている。

 

本物だ。

私の疑念は一蹴され確信に変わった。

聞けば、化粧品関連のクライアントを抱える部隊の責任者だという。

女性向け商品の通信販売を生業にしている当社にフィーリングは完ぺきだった。

 

☆☆

そのあと、現場リーダーとして中堅の男性営業1名、2名の女性営業という専属チームを率いて彼は責任者らしくいつも頼りになった。

 

「それにしてもタイミングが悪かったよね。」

「だから違いますよ~。たまたまだって お詫びしたじゃないですか(笑)」

 

信頼関係を築けた私たちは、しばらくの間、あの時のことを笑い話にしていた。

電話営業は、顔も知らない者同士が電話というツールを通して探りあうのですから、砂の中から運命のダイヤモンドを拾い上げるようなものかもしれません。

人間である以上、お互いに感情もあれば環境もある。

気分や タイミング で左右されてしまうのは心外だろうが、これが現実ではないだろうか。

相手の立場を思い計ってばかりでは仕事は進まない。

かといってこちらの思いを一方的に押し進めても空回りやトラブルにりやすい。

すべてに表裏があるように物事のタイミングも紙一重だ。

「運も実力」とはよく言ったものです。

 

営業諸君!

 

焦らず、あわてず、あきらめず

 

【松下幸之助さんの言葉】だ

努力をしていてもなかなか成果が現れてこない。イライラがつのる。投げ出したくなってくる。しかし、そんな時こそ心を乱さず、地に足をつけて努力を重ねたい。

焦らず、あわてず、あきらめず――仕事でも人生でも一歩一歩着実な歩みを心がけたい。

自分を信じて前に進もう!

健闘をお祈りする。

 

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